日本語の音の秘密(志矢木太陀介)

名付けに役立つ話と日本語の音の秘密を書いていきます。表題の太陽系の図はfreepikより。

ある老夫婦の話

今から15年ほど前に、不動産の相談で、熊本の田舎の町に行きました。

解体業の社員(作業員)をされていたご夫婦でした。

銀行の保証会社からの依頼でした。

雨漏れがする小さい、ボロボロの家に、数匹の猫とメスの土佐犬が番犬としていました。最初は土佐犬が唸っていたので、噛まれてしまうかも知れないと思いましたが、ご夫婦がいらっしゃいと声をかけてくれて、私が危害を与える人間でないと理解してくれました。

それでも、庭の窓の外からじっと家の中を伺ってます。

庭は解体で捨てるゴミというかご夫婦にとっては価値を感じたもので埋め尽くされていました。一見、ゴミ屋敷で相当荒れた心の人が住んでいるのかと思いました。

 

老夫婦はとあるローンの連帯保証人になった(ならされた)事で、自宅が差押になり、家を失うかどうか(競売)の瀬戸際でした。

 

家にあがって、驚いたのは、数匹の猫は雨漏れのしない部屋を自分たちの部屋として使い、ご夫婦は雨漏れのひどい部屋に寝ていらっしゃいました。理由を聞くと、猫が可哀想だからとの事。

土佐犬も餌代が相当かかるでしょうと尋ねたら、ご主人が毎日川で魚を釣って、それを河原で鍋で炊いて、身と骨を分けてあげているとの事。

何故土佐犬を飼っているのか尋ねると、メスの土佐犬は価値が落ちるからお前が育てろと上司に置いていかれたとの事でした。可哀想なので毎日世話をしていると。

年金生活をされていたのですが、その金額を聞くと生活保護の金額より低い(誰がこんな制度作ったのでしょうか、努力に応える国であって欲しい)

それでも、ご夫婦はその状況を受け入れていらっしゃいました。全てにおいて、自分達は後回しにしている。そして多くを語らない。

話を聞きながら、本来、こんな人達が人の上に立てばと感じていました。徳の高さというのでしょうか。

(今の日本は徳の低い方が上に立っていますね。

逆さまの世になってます。責任の一端は私達にありますが‥)

家を守るためのノウハウを伝えに行った自分が恥ずかしくなりました。

このご夫婦が亡くなる時に、数匹の猫や土佐犬が濡れた布団の周りで見送るのだろうなと思い、家を後にしました。土佐犬が安心して見送ってくれましたが、いろんな意味でショックを受けました。あんなにボロボロの家、濡れた布団、競売になるかも知れない不安、少ない年金。それでいて、家の中は暖かくハートマークに溢れている。

15年も前に出会ったご夫婦ですが、忘れられないお客様でした。

 

それまでのお客様は皆さん破産や民事再生事件の方々でした。ほとんどが会社の社長です。いつも言われたのが、「もっと早くあなたに会えていたら私はこんな目に遭わなかったのに」という言葉でした。

私は、「当時のあなたの前に私が現れても、全く相手にしなかったと思いますよ。あなたは、自分のお金儲けや上しか見ていない人生を送っていたのですから」と伝えていました。

私よりも経済的に貧しいお客様は一人もいませんでした。豪華な家だけでなく、家具にしても備品にしても車にしても。

人間って、懲りないし、厚かましい人達がいるのだなと思った10年間ほどの経験でした。

そんな時に、ふと猫と土佐犬に囲まれた老夫婦の徳の高さを思い出します。自然と頭が下がりました。

 

本日も最後までお読みいただきありがとうございました。

大掃除とかで慌ただしい日が続きますが、気になる方がいたらこのブログをお勧めいただければありがたいです。